棘上筋=外転筋だと思っていませんか?
- はりきゅう堂 静
- 6月6日
- 読了時間: 3分

「棘上筋ってどんな筋肉?」と聞かれて、「肩を横に上げる筋肉でしょ」と即答したあなた。それ、半分は正解なんですが、実はもう半分が抜けているかもしれないんです。
「前に上げる」と「横に上げる」が別々に出る不思議
先日、肩に違和感があるという患者さんがいらっしゃいました。
よく話を聞いてみると、こんな感じでした。
腕を前に上げると、肩の上の方(棘上筋あたり)に痛みを感じる
でも腕を横に上げると痛くない
後ろに引くのも、捻るのも、全然平気
「前に上げるときだけ痛い」って、なんだか不思議ですよね。横に上げる動作の方が筋肉に負担がかかりそうなものですが…。
施術者としては最初「上腕二頭筋のあたりかな?」と思って調べたんですが、どうも違う。じゃあどこが原因なんだ?としばらく考え込みました。
棘上筋に「前側」と「後ろ側」があった
ここで知っておきたいのが、棘上筋の構造。
棘上筋というと「肩を横に上げる筋肉(外転筋)」というイメージが定着しています。学校の解剖学の教科書にもそう書いてある。私もそう教わりました。
でも、実は棘上筋って前側の線維(前方線維) と後ろ側の線維(後方線維) で、少しずつ役割が違うことが分かってきています。
部位 | 主な役割 |
前方線維(前側) | 腕を前に上げる(屈曲) のを助ける |
後方線維(後ろ側) | 腕を横に上げる(外転)・外に捻る(外旋) |
つまり、前に上げる動作では棘上筋の前側が主に働き、横に上げる動作では後ろ側が主に働くということです。
この機能の違いは、解剖学や筋電図の研究でも報告されています(詳しくは記事の後半で)。
前側だけ痛むとどうなるか
ここで先ほどの話に戻ります。
もし棘上筋の前側だけに負担がかかっていたら?
「前に上げる → 前側が痛む → でも横に上げるのは後ろ側が担当するから痛まない」
という現象が起こります。さっきの患者さんはまさにこのパターンでした。
「棘上筋=横に上げる筋肉」という思い込みがあると、「前に上げて痛いなら棘上筋じゃないだろう」と早合点してしまい、原因を探すのに余計な遠回りをすることになります。
じゃあ、どうやって見分けるの?
施術者の方に向けて少し詳しく書くと、棘上筋のチェックによく使われるEmpty can test(空き缶テスト) は棘上筋全体の評価には便利ですが、この「前側だけのトラブル」には反応が出にくいことがあります。
代わりに、前に上げた状態で少し抵抗を加えるテストや、Full can test(親指を上にして斜め前に上げるテスト)を組み合わせることで、より詳しく評価できるとされています。
ただ、これはあくまで現場の話。「前に上げると痛い=これだ!」と決めつけるのも危険で、原因は他にもたくさん考えられます(上腕二頭筋の問題や、関節唇の損傷、首から来る痛みなど)。
実際に肩の痛みや違和感がある方は、整体院や整形外科など専門家の評価を受けるのが確実です。自己流で「この筋肉だ」と決めつけると、思わぬ見落としがあるので注意してください。
というわけで、棘上筋=外転筋というイメージ、ちょっとだけアップデートしてみませんか?というお話でした。
肩の痛みひとつとっても、教科書通りにいかない奥深さがあるから面白いんですよね。
さらに詳しく知りたい方へ
参考にした研究をいくつか載せておきます。
Mochizuki et al. (2013) — 棘上筋の前部と後部では線維の走向と停止部が異なることを解剖学的に確認。
Roh et al. (2012) — 筋電図解析で、前方線維は屈曲に近い角度で優位に活動し、後方線維は外転で優位に活動することを報告。
Kim et al. (2014) — 棘上筋断裂の部位によって、屈曲と外転の筋力低下パターンが異なることを示した。
Hegedus et al. (2012) — 肩の徒手検査に関する系統的レビュー。Empty can testとFull can testの比較など。


