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後頭下筋群と眼精疲労・頭痛・腰痛の関係

  • 執筆者の写真: はりきゅう堂 静
    はりきゅう堂 静
  • 6月3日
  • 読了時間: 7分

更新日:6月8日


— 鍼灸治療が有効な理由を解剖学から解説 —「目の奥が重だるい」「後頭部がズーンと痛む」「頭痛薬が手放せない」


そんな症状でお悩みではありませんか?パソコンやスマートフォンの長時間使用が日常となった現代、眼精疲労や慢性頭痛に悩む方は増加の一途をたどっています。しかし、その原因として「目そのもの」ではなく、首の深部にある小さな筋肉群が関与しているということは、あまり知られていません。

今回は、後頭下筋群(こうとうかきんぐん)と呼ばれる首の深層筋と、眼精疲労・頭痛の密接な関係について、解剖学的なメカニズムから鍼灸治療がなぜ有効なのかを詳しく解説します。


1. 後頭下筋群とは?


後頭下筋群は、後頭部の付け根(頭蓋骨と首の境目)の最深部に位置する、4つの小さな筋肉の総称です。僧帽筋や頭半棘筋のさらに深層にあり、指でのマッサージでは十分に届きにくい部位です。

図1:後頭下筋群の解剖学的位置。(ヒューマンアナトミーアトラスより)



筋肉名

起始

停止

主な作用

関連痛(TrP放散パターン)

大後頭直筋

第2頸椎棘突起

後頭骨下項線

頭部伸展・同側回旋

後頭部〜頭頂、側頭部、目の奥

小後頭直筋

第1頸椎後結節

後頭骨下項線

頭部伸展・微調整

後頭下部、側頭部、目の奥、前額部

上頭斜筋

第1頸椎横突起

後頭骨下項線

頭部伸展・側屈

側頭部、目の奥、前額部

下頭斜筋

第2頸椎棘突起

第1頸椎横突起

頭部回旋

後頭部、側頭部、目の奥


後頭下筋群は皮膚表面から約2〜3cmの深部にあり、通常のマッサージでは緩めにくいのが特徴です。細い鍼を用いることで、この深部に直接アプローチできるのが鍼灸治療の大きな強みです。



筋膜連鎖から見える意外な関係 — 後頭下筋群と腰痛


後頭下筋群の過緊張は、頭痛や眼精疲労だけでなく、腰痛の原因にも関与することが知られています。アナトミートレイン理論におけるスーパーフィシャルバックライン(SBL:浅後線)では、足裏→ふくらはぎ→ハムストリングス→脊柱起立筋→後頭下筋群→頭皮の筋膜が一連のラインとして連結されています。このラインの最上部である後頭下筋群が硬くなると、その張力が筋膜全体に伝わり、腰部の過緊張や骨盤の前傾を引き起こし、慢性腰痛につながることがあります。逆に、後頭下筋群を緩めることで腰部の張りが軽減するケースも多く、「首と腰はつながっている」という臨床感覚は筋膜連鎖によって裏付けられています。



2. 後頭下筋群と眼精疲労の密接な関係

「第二の眼筋」としての後頭下筋群


後頭下筋群は、眼球運動やピント調節の際に頭部を固定する「土台」として機能します。これはちょうど、カメラの手ブレ補正機能のような役割です。

  • スマートフォンの画面を注視する → 眼球が内下方へ動く

  • その動きに連動して、後頭下筋群が収縮し頭部を固定

  • 長時間のデスクワークで後頭下筋群は持続的に緊張し続ける

図2:眼精疲労の悪循環



エビデンス:眼球運動と後頭下筋群の連動

眼球を動かすだけで後頭下筋群の筋電図活動が有意に増加することが確認されています。つまり、「目を使う=後頭下筋群が疲労する」という構図が成り立ちます。この連動は、三叉神経-頸神経複合体(trigemino-cervical complex)と呼ばれる神経ネットワークによって説明されます。


3. 後頭下筋群と頭痛 — 三叉神経-頸神経複合体

三叉神経-頸神経複合体(Trigemino-Cervical Complex)


これは、頭部の感覚を司る三叉神経(第V脳神経)と、首の感覚を司る上位頸神経(C1〜C3)が、脳幹レベルで合流・統合される神経ネットワークです。


図3:三叉神経-頸神経複合体。



4. なぜ鍼灸治療が有効なのか?


4-1. 深層筋への直接アプローチ

後頭下筋群は皮膚表面から2〜3cmの深部に位置します。鍼灸治療では、直径0.16〜0.20mmの極細の鍼を目的の筋肉まで刺入することで、局所の筋緊張緩和、中枢神経を介した疼痛抑制、自律神経調整が相乗的に作用します。


図4:鍼灸治療の3つの作用経路。

4-2. 下行性疼痛抑制系の活性化

鍼刺激は、脳内の下行性疼痛抑制系(descending pain inhibitory system)を活性化します。この経路では、中脳中心灰白質(PAG)→ 延髄吻側腹側部(RVM)や橋の青斑核を経て、脊髄後角での疼痛伝達が抑制されます。これにより、これにより、脊髄後角ではセロトニンやノルアドレナリンが放出されるとともに、β-エンドルフィンを介した液性機序も並行して働き、鎮痛効果がもたらされます。


4-3. 自律神経調整効果

後頭下筋群の過緊張は、近接する硬膜への機械的刺激や頸髄上位への侵害入力を介して、自律神経機能に影響を及ぼす可能性があります。鍼刺激による副交感神経の活性化は、心拍変動(HRV)の改善や全身のリラックス反応を誘導し、眼精疲労に伴う自律神経の乱れ(不眠、めまい、動悸など)も同時に改善が期待できます。


4-4. 三叉神経-頸神経複合体への統合的アプローチ

鍼灸治療は、筋膜連鎖などの組織連絡を介して(詳細なメカニズムは研究中)後頭下筋群に直接アプローチし、三叉神経脊髄路核への異常入力を調整します。これにより、眼神経(V1)領域の感覚過敏が抑制され、目の奥の痛み・眼精疲労が改善します。薬物療法と比較して全身性の副作用が少ない点も利点の一つですが、施術には適切な技術と安全管理が求められます。


※ 鍼刺激によってこれらの神経生理学的メカニズムが誘導されるという因果関係は、動物実験では比較的明確に示されていますが、ヒトにおけるメカニズム的証拠はまだ発展途上であり、今後のさらなる研究が待たれるところです。


5. 静はりきゅう堂の治療アプローチ


後頭下筋群アプローチ


  1. 視診・触診:後頭下部の筋緊張・関連痛の場所や圧痛点を評価

  2. 後頭下筋群のうち原因筋肉を同定し正確に刺鍼:後頭下筋群への直接アプローチ

  3. 深部への刺激:頭半棘筋を貫通し、後頭下筋群に達する深さまで刺入

  4. 必要に応じ鍼通電:低周波での通電により、より強力な筋弛緩効果


眼精疲労への他のアプローチ

経穴

位置

期待される効果

攅竹(BL2)

眉頭の窪み

眼周囲の血流改善

魚腰(EX-HN4)

眉の中央

眼輪筋の緊張緩和

太陽(EX-HN5)

眉尻と目尻の中間

頭痛・眼精疲労に効果的

睛明(BL1)

目頭の鼻側

深部の血流促進

風池(GB20)

後頭骨下縁、胸鎖乳突筋と僧帽筋の間

後頭下筋群への直接アプローチ

天柱(BL10)

後頭骨下縁、僧帽筋外縁

頭痛・肩こりに必須

6. セルフケアのポイント


1. 画面の高さを調整モニターの上端が目の高さと同じか、やや下になるように調整する。ノートPCはスタンドを使用し、外付けキーボードを推奨。


2. こまめな休憩25分作業+5分休憩を目安にこまめに休憩をとる。休憩中は遠くを見る・首を回すなどを習慣に。


3. 正しい姿勢耳・肩・股関節が一直線になるよう意識する。骨盤を立て、胸を開く。


4. 首を冷やさない:特に後頭部の冷えは筋肉を硬直させます。夏場のエアコン直撃に注意し、必要に応じてタオルを巻く。


7. まとめ

眼精疲労や慢性頭痛の一因として、首の深部にある後頭下筋群の過緊張が関与していることが注目されています。


  1. 後頭下筋群は、眼球運動やピント調節を支える「第二の眼筋」(比喩的表現)

  2. その過緊張は、三叉神経-頸神経複合体を介して頭痛や目の奥の痛みを引き起こす

  3. 鍼灸治療は、深層筋への直接アプローチ+神経系の調整により効果を発揮

  4. 複数の研究において、後頭下筋群へのアプローチが頭痛・眼精疲労の症状改善に有効である可能性が報告されています。


目の薬や頭痛薬で一時的に症状を抑えるのではなく、根本原因にアプローチする鍼灸治療をぜひ一度お試しください。


参考文献

  1. Fernández-de-las-Peñas C, et al. Trigger points in the suboccipital muscles and forward head posture in tension-type headache. Headache. 2006;46(3):454-460.

  2. Sedighi A, et al. Comparison of acute effects of superficial and deep dry needling into trigger points of suboccipital and upper trapezius muscles in patients with cervicogenic headache. J Bodyw Mov Ther. 2017;21(4):810-814.

  3. Cho IH, et al. The effects of acupuncture on occipital neuralgia: a systematic review and meta-analysis. BMC Complement Med Ther. 2020;20(1):171.

  4. Li Y, et al. Acupuncture plus massage for cervicogenic headache: a systematic review and meta-analysis. Medicine. 2021;100(51):e28351.

  5. Šedý J, et al. Cervicogenic orofacial pain and trigeminocervical convergence. Medicina. 2022;58(10):1324.

  6. Bexkens R, et al. Refractory neuropathic pain in the head and neck: neuroanatomical and clinical significance of the cervicotrigeminal complex. Life. 2025;15(9):1457.

  7. 日本鍼灸大学. 鍼灸師のための解剖学入門㉔:後頭下筋群とツボ. 2025.


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