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国際疼痛学会(IASP)が認めた鍼灸治療 — 20,000人のデータが示す慢性痛への効果

  • 執筆者の写真: はりきゅう堂 静
    はりきゅう堂 静
  • 6月5日
  • 読了時間: 5分

「鍼灸って本当に効くの?」「科学的な根拠はあるの?」

鍼灸の勉強をして以来この質問を本当によく受けます。ニュースやSNSでは「効果あり」「いや、ただのプラセボ」と情報が錯綜し、患者様としてはどちらを信じればいいのか迷うのも無理はありません。

そこで今回は、疼痛分野で世界最高権威とされる国際機関が、鍼灸治療についてどのような公式見解を出しているのか——最新のファクトシートの内容をもとに、わかりやすくお伝えします。


1. 国際疼痛学会(IASP)とは?

まず、IASP(International Association for the Study of Pain)の存在を知っておくと、これからの情報の「重み」が変わります。

  • 設立:1974年、アメリカ・ワシントンDC

  • 会員数:世界130カ国以上、7,000人以上の科学者・医療従事者

  • 役割:疼痛の定義や分類を策定し、世界の疼痛医療の基準を作る

  • WHOとの関係:世界保健機関(WHO)と連携し、国際的な疼痛診療のガイドラインに影響を与えている

つまり、IASPが発信する情報は、世界中の医師や研究者が参照する「公式見解」といって過言ではありません。


2. IASPが2023年に発行した鍼灸ファクトシート

IASPは2023年、「Acupuncture for Pain Relief(鍼灸による除痛)」と題した公認ファクトシートを発表しました。著者は、ハーバード大学やマサチューセッツ総合病院(MGH)で鍼灸研究をリードする Qiufu Ma 博士、Vitaly Napadow 博士ら世界的権威。日本語を含む多言語に翻訳され、全世界に配信されています。


ファクトシートが示す3つの核心


① 39試験・2万人超のデータが示す確かな鎮痛効果

ファクトシートの中核エビデンスは、39試験・20,827人の患者データを統合した大規模メタ解析(Acupuncture Trialists' Collaboration)。その結果:

  • 真鍼(実際にツボに刺す治療)は偽鍼(プラセボ鍼)より有意に効果が高い

  • 偽鍼も無治療より有意に効果が高い

  • 効果は少なくとも12ヶ月以上持続する

  • 適応が確認されている主な慢性疼痛:腰痛、変形性膝関節症、慢性頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)、肩の痛み


② 鍼治療による鎮痛メカニズムの科学的解明が進んでいる

  • アデノシン仮説:鍼刺激で局所に放出されるアデノシンが痛みを抑える(Goldman, Nature Neuroscience 2010)

  • 内因性オピオイド:脳内でモルヒネ様の鎮痛物質(β-エンドルフィンなど)が放出される

  • 迷走神経-副腎軸:低出力電気鍼が特定の神経を介し、抗炎症経路を駆動する(Liu & Ma, Nature 2021)

  • 脳の可塑性:fMRI研究で、痛みに関わる脳領域の機能的結合を変化させることが確認されている


③ 副作用が少なく、薬との併用に適している

NSAIDsやオピオイド鎮痛薬には胃腸障害・依存・眠気などの副作用がつきものですが、鍼灸の副作用はほとんどが軽度の内出血(あざ)程度。ファクトシートは鍼灸を鎮痛薬に追加することで薬剤使用量を減らせる可能性も示唆しています。


3. IASPが認めたのは「痛み」の領域

ここで一つ、整理しておきたい点があります。

IASPは「痛みの国際学会」です。鍼灸ファクトシートもその名の通り「Acupuncture for Pain Relief」——つまり、あくまで「痛みに対する鍼灸」に焦点を当てた資料です。

これは鍼灸の効果が痛みに限定されるという意味ではなく、むしろ逆です。「世界最高峰の疼痛専門組織が、痛みの分野に限って鍼灸の効果を認めた」——その専門性ゆえに、このファクトシートの信頼性は極めて高いと言えます。

実際、近年の鍼灸研究の範囲は痛みだけにとどまりません。2025年に発表された862件のシステマティックレビューを統覧した大規模エビデンスマップでは、以下のような結果が報告されています。

カテゴリ

疾患数

明確な効果が確認された疾患

10

慢性疼痛、腰痛、変形性膝関節症、術後悪心嘔吐、片頭痛、緊張型頭痛、がん関連疲労、更年期症状、女性不妊、慢性前立腺炎

潜在的な有効性が示唆される疾患

82

アレルギー性鼻炎、消化器症状、不安・うつ、不眠など

エビデンス不十分/不明確

86

効果なしと結論

6

つまり、痛み以外の領域にも多くの研究が蓄積されつつありますが、IASPという組織の性格上、そのファクトシートは「痛み」に専門特化している。それだけの話です。言い換えれば、「IASPが認めた」という事実は、少なくとも痛みに関しては「世界最高レベルのエビデンスがある」という客観的な裏付けになります。


4. この事実があなたの選択肢を広げる

日本では慢性的な痛みに悩む人が約2,000万人いると言われています(厚生労働省調査)。その多くが「痛み止めを飲み続けるしかない」と諦めているのが現状です。

IASPという世界最高権威の組織が鍼灸のエビデンスを認めたという事実は、以下のような方にこそ知っていただきたい情報です。

  • 鎮痛薬の長期服用に不安を感じている方

  • 「鍼灸は気休めだろう」と思って一度も試したことがない方

  • 他の治療では効果が不十分で、新しい選択肢を探している方

鍼灸はすべての人に効くわけではありません。また、即効性を期待する急性の痛みよりも、じわじわと効果が積み上がっていく治療法です。しかし、IASPが示したように、慢性痛に対しては薬物療法に代わる(あるいは併用する)選択肢として、科学的に十分な根拠があります。


5. まとめ

  1. IASP(国際疼痛学会)は、世界最大・最権威の疼痛専門組織

  2. その公認ファクトシートは、20,000人以上のデータに基づき、鍼灸の慢性痛に対する有効性を認めている

  3. 鎮痛メカニズムはアデノシン・内因性オピオイド・迷走神経-副腎軸など複数の経路で科学的に説明可能

  4. 副作用が少なく、薬物療法と併用しやすい

  5. IASPのファクトシートは「痛み」に専門特化したもの。痛み以外の領域でも、別途エビデンスが蓄積されつつある

  6. すべての人に効くわけではないが、慢性痛に悩む方にとって「試す価値のある選択肢」であることは、世界最高権威が認めるところ

本記事の内容は、IASPAcupuncture for Pain Relief」ファクトシート(2023512日発行、20257月現在IASP公式サイトで公開中)および関連文献に基づいています。


参考文献

  1. IASP. Acupuncture for Pain Relief [Fact Sheet]. 2023 May 12. https://www.iasp-pain.org/resources/fact-sheets/acupuncture-for-pain-relief/

  2. Vickers AJ, et al. Acupuncture for chronic pain: update of an individual patient data meta-analysis. J Pain. 2018;19(5):455-474.

  3. Goldman N, et al. Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture. Nat Neurosci. 2010;13:883-888.

  4. Liu S, et al. A neuroanatomical basis for electroacupuncture to drive the vagal-adrenal axis. Nature. 2021;598:641-645.

  5. Yan J, et al. The state of evidence in acupuncture: a review of meta-analyses and systematic reviews of acupuncture evidence (update 2017–2022). Complement Ther Med. 2025;84:103079.


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